避難所 4割が高齢者
福島原発ニュース
読売新聞 2012年2月11日
>http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/saitama/news/20120211-OYT8T00081.htm
東日本大震災 「復興身近に感じない」
東日本大震災の発生から11日で11か月。東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響で、福島県双葉町の住民と役場機能が避難した加須市の旧県立騎西高校では、今も500人近い人が暮らし、その約4割が65歳以上の高齢者だ。いまも段ボールの仕切りに囲まれた部屋で、周囲に気をつかい、取り残されたような不安を覚えながらも、互いに励まし合っての避難生活が続く。(村上達也)
「せーの、うさぎ追いし、かの山――」。
同高校の剣道場で、段ボールの仕切りから少し離れた畳の上に歌集を広げ、高齢者4人が声を合わせて歌う。この部屋で暮らす井戸川純良さん(82)、吉岡ハツイさん(84)、石川ミツさん(83)、松永タツエさん(78)の4人が、昨年秋から始めた、ささやかな楽しみだ。
支援物資の弁当で夕食を済ませた後、「やりましょうか」と声をかけて集まる。慰問に訪れた団体からもらった歌集などを広げ、約1時間かけて40曲ほど歌う。部屋の住民もほほ笑ましく見つめるが、4人は「うるさくしちゃ、悪いから」と、歌声を潜める。「下手だから、とても人様に聞かせられるものじゃないの」と吉岡さんは笑う。
同高校に避難するまで、4人はお互い顔も知らなかったが、同じ部屋で寝起きするうちに茶飲み話などをする仲になった。しかし、高齢者にとって避難所での生活は、寝て過ごすばかりになりがちだった。そこで、持っていた歌集を手に、「みんなで歌おうか」と始めたという。
4人は今年に入り、町社会福祉協議会が高齢者の介護予防のために同高校で週3回開く「にこにこサロン」にも足を運び、ほかの高齢者らと一緒に歌を歌うようになった。会場は校舎の離れにあり、大きな声に気兼ねすることもない。石川さんは「大きな声を出して歌えるのは気持ちがいい」と笑顔を見せた。
井戸川さんは、一緒に暮らしていた妻(81)と長男(53)が千葉県の親族宅近くのアパートに避難し、昨年4月から一人で暮らす。「見知らぬ地で、アパートに閉じこもりたくない」と、気心の知れた町民らとの生活を選んだが、「元の生活に戻ること」が一番の願いという。
「生きてるうちに帰れるのかさえ分からない。『復興』という言葉も、まったく身近に感じられない」。井戸川さんはため息をついた。