健康、生涯見守り続ける…福島
福島原発ニュース
読売新聞 2012年7月9日
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=61450
◇鈴木真一県立医大教授
福島県と県立医大が、東京電力福島第一原発事故による健康への影響を調べる県民健康管理調査を始めて約1年。特に子供の甲状腺への影響を懸念する保護者の不安は深刻だ。検査を担当する同大の鈴木真一教授に、検査の意義や今後の課題を聞いた。
――生涯にわたって甲状腺検査を行う意義は。
「一般に『がんは若いほど進行が早い』といわれるが、反対に甲状腺がんは若いほど進行が遅いのが特徴だ。だから、長期間にわたって様子を見守る必要がある。子供たちが将来どこの土地に行っても、過去の調査データが県に集積されていて、生涯見守り続けるシステムだと思ってほしい」
――チェルノブイリでは子供の甲状腺がんが増加した。福島とどこが違うのか。
「事故規模は同じ『レベル7』だが、空間線量に関しては、福島はチェルノブイリの7分の1だ。さらに、チェルノブイリの場合、旧ソ連は事故後約1か月にわたって情報を開示せず、人びとは放射性物質に汚染された食物を食べ続けて内部被曝した。特にミルクしか飲まない赤ん坊はその後甲状腺がんが多く見られた。福島の場合は、すぐに食品の出荷を制限したので内部被曝量が大きく違う」
――甲状腺がんはどのようにできるのか。
「甲状腺は喉仏のすぐ下にあるチョウ形の長さ数センチの器官。放射性ヨウ素と結びつきやすいため、がんの原因となる。甲状腺がんになると、新陳代謝をつかさどる甲状腺ホルモンの分泌に異常を来すようになる」
――甲状腺検査はどのように進められるのか。
「1次検査は超音波でしこりなどの有無を確認する。時間は5分程。しこりが一定以上の大きさの場合などに、専門医が2次検査に呼ぶかどうか協議する。その際、私たちの検査では、県民の健康をより広く確保したいという意図から、一般的な基準よりも広い範囲で対象者を選ぶ仕組みにした。その結果、通常なら『所見なし』とするレベルも該当してしまうケースが多くなった。だから、2次に呼ばれたからといって一概に不安になる必要はない」
――返送された結果に「しこりがある」と書かれても、2次検査に呼ばれない場合もある。不安を持つ人もいるのでは。
「実は検査開始前、医師の間には、2次検査が不要なら書く必要はないのでは、という声があった。でも、『良性も含めてきちんと診ているんだ』というメッセージを込めて、お知らせすることにした」
――2次検査会場を訪れた県民の様子は。
「しこりが見つかって呼ばれた子供の母親は、『大変なところに来てしまった』という様子で不安そうにしている。そんな姿を見かけると、『子供によくあるしこりだから大丈夫』と声を掛けている。泣き出す子供もいるが、『また2年後に来るんだよ。お兄ちゃんになってるかな』と怖がらなくていいことを伝えている」
――調査の今後の課題は。
「検査システムについて、安定した質の確保とスピードを両立させること。それには専門家の確保が必要だ。調査研究だけでなく、臨床の現場も踏んでいる医師がかかわることに意味がある。県立医大は県内唯一の医大として、そういう人材を育てていくことが必要だ」(聞き手・福元理央)
◇すずき・しんいち 会津若松市生まれ、55歳。県立医大医学部医学科卒、医学博士。日本内分泌外科学会理事長、日本甲状腺外科学会理事。今年6月から同大放射線医学県民健康管理センターの甲状腺検査部門長。