避難区域の再編完了 故郷まだ遠く 住民、歓迎と落胆
福島原発ニュース
毎日新聞 2013年08月08日
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20130808ddm041040194000c3.html
今年6月、福島県川俣町山木屋地区で開かれた避難区域再編の住民説明会=深津誠撮影
最後の避難区域再編となった山木屋地区。事業が再開できることを喜ぶ避難者がいる一方で、住宅整備に否定的な国の態度に落胆を隠せない住民もいる。先行した自治体も帰還に向けた課題は多い。再編完了は一里塚だが、行く道の先は「帰郷」とは限らない。多様化する個人の復興をどう支えるかが課題だ。【深津誠】
「3年間も出荷できなければ、別の産地に負けてしまう。これで来春から出荷向けに花を栽培できる」
同町山木屋地区の花卉(かき)専業農家、三浦斉さん(39)は、花のビニールハウスがあるエリアの避難指示解除準備区域への再編を喜んだ。再編前の計画的避難区域でも立ち入りは可能なので今年、農林水産省から小規模な試験栽培を受託。しかし本格的な栽培は禁止で、再編で営農や事業再開が認められたからだ。
震災前、36アールで栽培したトルコギキョウは年商2000万円。安定した収入も新築の自宅も原発事故に奪われ、町内の借り上げ住宅に身を寄せる。種まきは来年1月。観賞用の花なら放射線量への不安も少なく、風評被害も軽微だ。「良い花を作って売り上げが戻れば、山木屋で生きていける。それが示せれば戻る人も増える」
だが、約1200人の地区住民がみな歓迎しているわけではない。再編の住民説明会で復興公営住宅の整備を求めた会社員の鴫原(しぎはら)勝則さん(37)は復興庁担当者の回答がひっかかる。「長期避難者が対象」と説明し、山木屋は対象外との見解だった。事故から2年が過ぎ「既に長期避難なのに……。同住宅ができないと地区を離れる人も増える。(国は避難指示)解除を急ぎたいのだろうか」と落胆の表情を浮かべた。解除は、東電からの賠償打ち切りを意味する。
地区から出馬した菅野清一町議は「再編が先行した自治体でも除染は進まない。賠償も進まない」と住民の思いを代弁する。
◇先行自治体、4割「戻らない」
2012年4月の区域再編開始から1年4カ月。放射線量が低い川内村や広野町も帰還率は2〜4割にとどまる。線量が高い大熊町では、町民の4割が復興庁のアンケート(今年1月)に「戻らないと決めた」と回答。住民の健康不安解消のため欠かせない国直轄の除染は、川内、田村、楢葉の3市町村以外はほとんど進んでいない。今年度中の除染完了という目標は遅れる見込みだ。区域再編だけでは帰還に直結しない。
帰還を諦め、避難先で新居を構える動きも進む。帰還見込み時期が5年以上先の帰還困難区域に再編されると、1人当たり月10万円の精神的賠償の5年分、600万円を一括して受け取れる。これを新居確保に充てるからだ。福島市のあるハウスメーカーの担当者は「避難者の新築が増え、契約から半年後まで着工できないケースも続いている」と明かす。