「農家できなくなる」 食品のセシウム新基準に怒り
福島原発ニュース
福島民報(1月25日)
http://www.minpo.jp/view.php?pageId=4107&mode=0&classId=&blockId=9927085&newsMode=article「厳しくされたら農家をやめるしかない」。食品中の放射性セシウムの新基準値について、厚生労働省と内閣府食品安全委員会による説明会が24日、福島市で開かれ、出席した県内の農家らから怒りの声が相次いだ。東京以外で初めて開催されたが、国の方針に納得しない生産者の姿が目立った。一方、消費者は基準の一層の厳格化を求めている。県は放射性物質検査態勢の確立に不安を抱える。
「毎日食べるわけではない、あんぽ柿やブルーベリーなどの嗜好(しこう)品まで100ベクレルとすべきではない」。説明会で二本松市の農家男性は、国が農家の窮状を反映せず基準値を厳しくしたことに憤り、見直しを求めた。「一律の厳格化により農家は生産できなくなり、特産品が消えてしまう」と訴えた。
説明会には農家や行政関係者ら約160人が出席した。販売先から農産物の安全性について質問され続けているJAの男性職員は、厳格化と合わせて県内農産物の安全、安心を宣言するよう求めた。しかし、国の担当者からの明確な回答はなく、「質問に全く答えていない。厳格化だけで、消費者に食べてもらえると考えているのか」と憤った。県内農家には厳格化されることへの不安や動揺が広がっている。郡山市の農業男性は昨年、約20ヘクタールの水田で作ったコメに放射性物質は検出されなかった。しかし、今年産が昨年と同じ結果になるとは限らない。「消費者に安心してもらうために厳格化は必要。ただ、わずかに検出されただけで周囲の農家ごと風評被害にさらされては安心してコメ作りができない」と嘆いた。
農作物から放射性物質がほとんど検出されていない会津地方。基準が厳格化されても影響は少ないと考える農家は多い。会津坂下町でコメやソバ、リンゴを生産する農業加藤健さん(63)は「基準が厳しい方が安心して出荷できる。消費者にとってもいいことだ」と受け止めている。
昨年は風評被害の影響が大きかっただけに「基準が厳しくなれば、風評被害の払拭(ふっしょく)にもつながるのでは」と期待を込めている。
ただ、基準値を引き下げても消費者が安心感を持たなければ本県農業の厳しい状態は打開できない。JA福島中央会の長島俊一常務理事は「国は新基準値が国民の信頼、理解を得られるよう、十分な説明や情報開示をしてほしい。そうでなければ農家は数値に振り回されるだけだ」と強調した。
基準値が下げられることにより、放射性物質検査を担う県や市町村には、現在の態勢で対応できなくなる恐れが出ている。
基準値が下がることは検出下限値の設定にも連動し、従来以上に精度の高さが求められることになる。県は現行の基準値が1キロ当たり200ベクレルの飲料水の検出下限値を4~5ベクレルに設定しているが、新基準値10ベクレルでは1ベクレルまで下げる考えだ。この場合、検査時間は現在の15分程度から20~30分に伸びる見通しだという。
県担当者は「人員配置や検査スケジュールを見直すか、検査機器を増やしたりしなければならなくなる」とみる。県は国に検査機器の拡充を要望することも検討している。
【写真】福島市で開かれた放射性物質対策に関する説明会。出席者から国の担当者に新基準値への疑問の声が寄せられた。