世界への突破口になるか、福島沖の「浮体式洋上風力」
福島原発ニュース
日本経済新聞 2012年5月14日
http://www.nikkei.com/tech/ecology/article/g=96958A9C93819499E3E2E2E09A8DE3E2E2E7E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2
福島県の沖合約20kmの太平洋上に、2013年以降、巨大な風力発電設備が次々とお目見えする。東日本大震災で事故のあった東京電力福島第1原子力発電所からも30kmほどの距離になる。まず、2013年に2000kW、2014年に7000kW、2015年には数千kWクラスの風車を順次、設置する。総事業費は188億円。東日本大震災復興関連の2011年度第3次補正予算で開始が決まった「浮体洋上ウインドファーム実証研究事業」だ。
浮体洋上ウインドファームとは、海の上に多数の巨大な風力発電設備を浮かべて発電し、海底ケーブルで陸上に電力を送る大規模風力発電所である。洋上風力発電の設備は英国とデンマークで設置が進みつつあるが、これらはいずれも海底に基礎を据える「着床式」。これに対して、福島沖の事業では「浮体式」を採用する。
理由は水深の違いである。コスト的に着床式で設置可能なのは、水深40mくらいまでといわれる。欧州では水深20m前後の遠浅の海域が広く、着床式が有利なのだ。一方、40mより深くなると、船や浮きのような構造物の上に風車を載せる浮体式の方がコスト的に有利になっていく。福島沖20kmの水深は、100m前後にも達する。このため、計画立案の当初から着床式という選択肢はなく、浮体式を選ぶしかなかった。
■世界最大の出力を浮体で
ただし、浮体式の風力発電は、数年前からイタリアやノルウェー、ポルトガルで1000kW~2300kW機の実証実験が始まったばかりである。世界的にもまだ研究段階の技術といえる。しかも今回の福島沖の実証事業は、7000kWという世界最大の風力発電設備を次世代技術である浮体式で設置するという世界初の試みになる。
羽根(ブレード)の先端が回転して描く円の直径は165mに達し、定格出力が出れば、1基で数千世帯の電力を賄える。成功すれば、洋上風力の先端技術の実証で日本が欧州を抜き、一気に世界をリードすることになる。加えて、経済性を確保できれば、この海域で大規模なウインドファームを事業化する構想もある。
2012年7月に始まる再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」では、数千枚もの太陽光パネルをずらりと並べて発電するメガソーラー(大規模太陽光発電所)が脚光を浴びている。しかし巨大洋上風車なら、たった1基で数MW(メガワット=1000kW)クラスの出力規模になる。仮に、これを1000基並べたウインドファームを建設すれば、数GW(キガワット=百万kW)になり、30~40%とされる設備利用率を加味しても、原発に匹敵する出力規模になる。
国内の再生可能エネルギーの中では、潜在的な開発可能量でも洋上風力は群を抜いている。環境省が2011年4月に公表した「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によると、洋上風力は16億kWに達し、陸上風力(2億8000万kW)、非住宅太陽光(1億5000万kW)、地熱(1400万kW)を大きく引き離す。