太平洋の魚は今…
福島原発ニュース
読売新聞 2012年9月12日
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=64773
8月、東京電力福島第一原発の沖合で、アイナメ2匹から、1キログラムあたり2万5800ベクレルの放射性セシウムが検出された。東北や関東地方の太平洋沿岸の魚は現在、どのような状況なのだろう。
海洋生物環境研究所は、文部科学省の委託を受けて原発事故後の2011年5月から、この海域の海水や海底土の放射能濃度を測定している。福島第一原発のある地点を中心に、宮城県金華山から千葉県銚子までの沖合約50キロメートルに至る沿岸漁業が盛んな海域が調査対象だ。表層、下層、必要に応じて表層と下層の間の中層の海水を採取し調べている。
文科省が公表しているデータを追跡すると、各地点とも海水の放射能濃度は下がってきていることがわかる。同研究所研究参与の渡部輝久さんは「津波で大量に巻き上げられた海底土や海に流出した陸上の土砂に放射性物質が吸着し、その後、海底に沈着したり潮流に乗って広い海域に拡散したりしたため」と指摘する。データは文科省のホームページ内にある。
魚への影響はどうか。同研究所は、農林水産庁の委託で魚についても調べている。福島県沖では現在も高い放射能濃度の魚がみられるが、宮城県や茨城県沖では、不検出か、検出されたとしてもさほど高くない場合が多い。
生息する層などによっても影響が異なる。事故当初、イカナゴなど表層に生息する魚から高い濃度の放射性セシウムや放射性ヨウ素が検出されたが、今は事故前の状況に戻りつつある。
一方、スズキやアイナメ、クロダイ、マダラ、ヒラメなどのように中層や下層に生息する魚からは今でも、国の一般食品の基準値の1キログラムあたり100ベクレルを超える濃度が検出されることがある。放射性セシウム沈着して濃度が高くなった海底土に生息するゴカイなどの生物が、それを取り込み、さらに、そうした生物を食べた魚に放射性セシウムが移行していると考えられる。時には、海に流れ込む河川の影響からか、スポット的に高い数値が示されることもある。これらに対し、海底に生息しているミズタコや貝類などの軟体類からは不思議と放射能があまり検出されていない。何らかの理由でセシウムが濃縮されにくいと考えられるが、はっきりとした理由はわかっていない。
海の魚だけでなく、淡水魚からも放射性セシウムが検出されている。淡水は海水よりも塩濃度が低い。淡水魚は体内の塩濃度を保つために体内からの排出を抑え、周囲の水から積極的に塩類を吸収しようする。その際、生体に必要なカリウムと性質が似ているセシウムを多く取り込んでしまうためとみられている。
魚の放射能濃度は、呼吸や餌から取り込んだ分と、尿やエラから排出する量のバランスによっても決まる。渡部さんは「放射能の濃度が高い餌を食べ、生きている時間が長い魚ほど、放射能濃度が高い可能性があると言える」と分析している。魚の放射能濃度は、様々な要素が影響している。