日立が風力発電に本格参入のワケ、洋上風力に強み
福島原発ニュース
日本経済新聞 2012/9/26
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK25033_V20C12A9000000/
日立製作所による富士重工業・風力発電部門の買収が完了した2012年7月1日。数十人の技術者が、通い慣れた宇都宮市にある富士重工の工場を離れ、茨城県日立市にある日立の埠頭工場で勤務し始めた。
これまでも両社は風力発電設備のビジネスで提携関係にあった。富士重工がブレード(羽根)や動力伝達機構の供給、設備の組み立てなどを担当し、日立は得意の発電システムを担当していた。一方、営業・販売面は日立が一手に引き受け、後発ながら国内シェアを徐々に高めてきた。今回、日立は買収によって事業のスピードを一気に加速しようともくろむ。「製販一体になったことに加え、風力関連の技術者が1つの部隊になったことで、開発スピードも上がる。本格的に風力発電事業に打って出る体制ができた」(日立製作所電力システム社の発電システム本部の大和田政孝チーフプロジェクトマネージャー)。買収が完了して間もない7月12日、日立は出力5000kWの洋上風力発電設備の開発に着手したことを発表した。
密な提携関係にあった両社が、このタイミングでなぜ買収に踏み込んだのか。その背景を探ると、経済産業省の姿がちらつき始める。
福島第1原発の事故を受けて、経産省は国内の風力発電、特に洋上風力発電の開発に本腰を入れ始めている。同省主導で進んでいる福島県沖での洋上ウインドファーム(大規模風力発電所)の建設プロジェクトでは、風力発電設備メーカーとして三菱重工業と日立製作所が名を連ねている。三菱重工は世界的な風力発電設備メーカーで、洋上風力に関しても、既に英国の洋上プロジェクトに向けて7000kW機の開発を着々と進めている。先行する三菱重工に加え、国内で日立が洋上風力への参入に名乗りを上げたことになる。
日立による富士重工の風力発電部門買収が発表されたのは、実は福島沖のプロジェクトが公表される直前だった。「今後、洋上風力の開発にはかなりの投資が必要になる。富士重工は単体だとそれについてこられなかった」。ある経産省の幹部はこう漏らす。政府が産業政策として洋上風力開発を支援する場合、国内風車メーカーが1社だと周囲から特定企業の支援にも見えかねない。日立が富士重工の風力部隊を買収したことで、福島県沖には三菱重工製に加え、日立ブランドの風車が回ることになったというわけだ。
日立に続き、東芝も洋上風力に参入する意向を示した。9月4日に日立造船やJFEスチールなどと「地域振興型アクア・ウィンド事業化研究会」という洋上風力事業に関する研究会を立ち上げた。東芝は2011年5月に、韓国の風力発電装置メーカーであるユニスン社と業務提携し、2012年5月には資本参加して傘下に収めると発表したばかりだった。