東北電値上げ 反発厳しく
読売新聞 2013年5月15日 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/miyagi/news/20130514-OYT8T01552.htm 7月から電気料金を大幅に値上げする東北電力の計画が、消費者団体などから猛反発を受けている。家庭向け平均11・41%という値上げ幅は経済産業省の審査で圧縮される公算が大きい。震災で行き詰まった経営を値上げで打開したい東北電だが、周囲を取り巻く現状は厳しい。(小林泰裕) ◇反対の包囲網 「節電努力にも限界があります」 9日、仙台市内で開かれた経済産業省の公聴会。値上げを審査する経産省の専門委員会のメンバーや、東北電の海輪誠社長らが見つめる前で、仙台市太白区に住む佐々木政子さん(65)は切々と訴えた。 息子夫婦と孫2人の5人暮らし。2010年9月に新築した自宅は、オール電化だ。今冬は室内灯や暖房をこまめに切る節電に努めたが、1月の電気料金は約3万4000円。佐々木さんは「電力会社の宣伝が決め手で買った。大幅な値上げで家計は大変。何とか回避してほしい」と続けた。 「復旧に要した費用を製品価格に転嫁できず、収益が圧迫されている」と、震災後の経営の現状を明かしたのは、岩手県北上市の製紙会社部長の小谷津仁さん(53)。東北電は企業向け料金も平均17・74%値上げする方針だが、小谷津さんは「死活問題だ。東北から企業の撤退が相次ぐことになりかねない」と警鐘を鳴らした。 自治体が値上げ幅の圧縮を求め、4月には、東北と新潟の7知事が連名で、東北電に対して要請書を提出。東北電の大株主の仙台市ですら、奥山恵美子市長が経産省に被災地の負担軽減を図るよう求めた。 ◇不退転の決意 東北電にも、引くに引けない事情がある。震災で女川原発(女川町、石巻市)が被災し、その後の新潟・福島豪雨で火力や水力の発電所が軒並み被害を受けた。追い打ちをかけるように、火力用の液化天然ガス(LNG)などの価格が高騰。 13年3月期まで3期連続で赤字を計上し、自己資本比率は約10%と3年前から半減した。民間信用調査機関は「普通の企業であれば、銀行からの借り入れが不可能になる状態だ」と指摘する。 33年ぶりの値上げにあたり、役員報酬を4割、職員の年間給与を2割、カットした。申請した値上げ幅が全て認められれば年2000億円の収入増となり、黒字転換も視野に入る。「何を言われても、お願いし続けるしかない」。東北電幹部は、値上げに不退転の決意を示している。 ◇再稼働は不透明 だが、東北電の思い通りに進む可能性は、現時点で低いと言わざるを得ない。 先行して値上げに踏み切った東京、関西、九州の各電力は審査の結果、申請段階から2ポイント前後カットされた。9日の公聴会では、専門委のメンバーが「被災地という事情はあっても、他社と異なる査定はできない」との見解を示した。 また、値上げ幅の算定根拠の一つには、東通原発(青森県東通村)の再稼働という不安定な要素が含まれている。東北電は同原発敷地内の活断層の有無を巡って原子力規制委員会との議論を続けているが、予定通り15年7月に再稼働が実現するかどうかは不透明だ。再稼働できない事態に陥れば、発電能力の約9割を火力に頼る東北電では、1円の円安で60億円もコストが跳ね上がり、値上げ効果がなくなる可能性もある。 先行する電力3社については、既に再値上げの可能性が取りざたされているが、東北電にとっても決して対岸の火事ではない。首脳の1人は7月以降の再値上げの可能性について、「消費者の反発は計り知れない。軽々しく言えることではない」と明言を避けた。