社説:被災地紛争解決 法律扶助の強化が必要
福島原発ニュース
毎日新聞 2012年1月11日
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20120111k0000m070105000c.html
東日本大震災に伴い、被災者の生活再建に欠かせない分野で、新たな制度や仕組みができた。
二重ローン問題では、私的整理に関するガイドラインが策定され、破産手続きなどによらない個人の債務減免に道を開いた。また、原発事故の賠償問題では、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の下に「紛争解決センター」が設置された。法律家が中心の総括委員会が和解の仲介手続きに当たる。
いずれも、法律解釈の余地が残る問題や紛争について、一定の公的な手続きの下で迅速に解決を図るために作られた。だが、現時点では活発に利用されているとは言えない。
二重ローン問題は中立の運営委員会が手続きを担うが、約1300件の相談に対し申し立ては100件に満たない。原発事故で紛争解決センターに持ち込まれた申し立ても、4カ月で約550件にとどまる。
二重ローンや原発賠償問題を含め、日本弁護士連合会の無料法律相談には被災者から約3万5000件の相談が寄せられた。相談だけでは解決に至らず、具体的な法的手続きが必要な事案が相当数あり、今後顕在化すると日弁連はみている。
特に原発事故については、福島県内の約150万人に賠償対象が広がった。実際の放射線量や避難実態に対応せずに線引きされたとの不満が高まっている。賠償をめぐる紛争の火種は尽きない。
家や仕事を失ったり、原発事故で故郷を追われた被災者らは、最低限の生活基盤を確保するのに手いっぱいだ。法手続きを進めるため、自力で弁護士に依頼する金銭的余裕はないだろう。その結果、法的救済を求める潜在的なニーズがあっても解決のレールに乗らないのが現実だ。
そのようなニーズをすくい上げる役割を担うのが06年に設置された日本司法支援センター(法テラス)だ。法律扶助などを通じ、経済的な理由で法的トラブルの解決ができない人に手を差し伸べる。
だが、法テラスの業務を定めた総合法律支援法では資力要件が定められる。被災地では、相談に訪れた被災者が資力を理由に支援対象から除外された例も出ているという。また、弁護士費用などを立て替える「代理援助」は、民事裁判に限られる。二重ローン問題や、原発賠償問題での解決手続きには適用されない。
現行法に限界があると言わざるを得ない。もともと日本の民事法律扶助の予算は欧米に比べ格段に少ない。政府は、新規の立法措置などによって東日本大震災に対応する法律扶助の仕組みを検討すべきではないか。被災者の紛争が解決されなければ復興は前に進まない。