光のしずく:希望の明かり、街に 福島・光のイベント実行委員長、和合さんの詩に支えられ
福島原発ニュース
毎日新聞 2012年2月6日
http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20120206ddlk07040053000c.html
「電気のために死にかけたからこそ、明かりで街に希望をともしたかった」。福島市中心部の街路樹を約22万個の電球で飾り、14日まで開かれているイベント「光のしずく」の実行委員長、岩山知弘さん(46)はそう語る。東京電力福島第1原発事故で中止も考えたが、支えになったのは同市在住の詩人・和合亮一さんがこのイベントのため、一本一本の街路樹にタイトルをつけた148編の詩だった。【清水勝】
木が倒されてしまって/
そこに/
何の姿もない/
でも/
姿のない姿の/
木は育っていて/
僕たちはその木の下で/
無くなってしまった/
木の影を探すしかない/
だけど/影は/
ついに/
見つけられない/
木のすべてを/
失うことは/
悲しい市内で楽器店を経営する岩山さんは震災直後、<悲しみの木>と題された詩と同じ感情を抱いた。停電で愛車に避難してカーナビでテレビを見た時、知人が多く住む宮城県沿岸部が津波に襲われ、100人単位で死者が出た模様と報じていた。
「無駄な電気をつけるとは何事だ」。原発事故の翌日、市役所に抗議電話が殺到した。昨年は3月14日までの会期で、電気が戻ると街路樹に明かりがついてしまった。07年冬に始まり、50万人以上が訪れる冬の風物詩。節電が叫ばれた昨夏、イベントを続行すべきか判断を迫られた。
吹かれてみると/
気がつくことがある/
吹いてくる風が/
問題なのではない/
一番は/
こごえている自分だ/
ということ/
なのさ批判も予想されたが、<風の木>の詩と同じような気持ちが後押しした。
市内には放射線量が高い地域があり、子供を持つ世帯を中心に約5600人が自主避難している。岩山さんも1児の父。「避難しないで子供に健康被害が出たらどうする」。そんな声も届いた。
もう決めたこと/
心が決まったこと/
根を下ろし/
枝を広げて/
冬の凍(い)てつく/
空を持ち上げ/
叫ぶような/
決意の木に/
その熱い頬を/
押しあてよ/
決意せよ「福島で生きていこう」。<決意の木>が心の中で大きく育っていくのが分かった。
不安はつきまとうが、震災後も自宅からツイッターで詩を発信し続けた和合さんが傍らにいる。
誰も/
知らない野原を/
誰かが歩いた/
足跡がある/
次の誰かがまた/
その上を歩いたから/
足跡はやがて/
小さな道になる/
次 次 誰かがたくさん歩き/
小さな道は/
そして たしかな/
大きな通りになった/
誰かの一人/
となって/
私もこの道を/
歩いていこう「絶対へこたれない」。雪をかぶった<成就の木>の前で、岩山さんは一人誓った。